“ベビーマッサージの素晴らしい点は、親が子どもを育てると同時に、親も育てられている、ということを学べることです。”
ティファニー・フィールド博士
マイアミ医科大学のティファニー・フィールド博士は、タッチの利点について研究するリーダー的存在であり、また、権威でもあります。フィールド博士は、世界中の様々な文化において、ベビーマッサージが古
代からの習慣として行われてきたことに基づき、複数の調査研究に取り組んできました。彼女の革新的な研究により、マッサー
ジを受けた早産児(妊娠37週未満に生まれた新生児)は、体重が増加し、マッサージを受けていない新生児よりも退院が早くなる、ということが明らかとなりました。
アッシュリー・モンタギュー氏は、世界的に有名な人類学者であり、多数の著書を世に送り出した作家でもあります。著書のなかでも、「タッチング」という本は、50万部以上も販売され、ベストセラーとなりました。モンタギュー氏の研究テーマは、タッチが性、種族、文化、年齢を超えて社会的なコミュニケーションの手段として発
展、適応してきたということです。例えば、タッチの剥奪(はくだつ)について言及し、「この世にタッチがなければ、人は
育つことができず、コミュニケーションをとることもできず、常に攻撃や戦争にさらされている状態かもしれない」と述べています。こうした見解からも、タッチがこれまで最もおろそかに扱われてきた感覚だということは非常におかしなことです。モンタギュー博士は、新生児の集中治療室で、タッチが行われてこなかったことなどを例
に挙げ、タッチを軽視してきたこれまでの専門家たちを批判します。また、保育園児に対してタッチしないことを提唱したり、命じたりしてきた専門家たちも批判の対象となっています。米国の小児科医T.ベリー・ブラゼルトン氏は、世界で最も多くの人々によって利用されている“新生児行動評価”を開発し、そ の重要性は高く評価されています。これにより、専門家と親たちの両方が、新生児の出生時に持つ驚くべきスキルや能力に注目するようになりました。ブラゼルトン博士は、現在は、胎児評価に関する研究に関心を寄せています。 胎児評価基準は、妊婦の子宮の危険状態を察知するのに有効な手段となるでしょう。また、妊娠9週以後の、胎児の発育について多くのことを知ることができるでしょうし、タッチがどのように胎児によって知覚され、どのように胎児期の学習を促進するかについて知るのにも役立つでしょう。
ブラゼルトン氏の“新生児行動評価”は、新生児が、外部から侵入してくるマイナスの刺激からわが身を守るとき、運動神経や自律神経をコントロールしてどのようの、胎児の発育について多くのことを知ることができるでしょうし、タッチがどのように胎児によって知覚され、どのように胎児期の学習を促進するかについて知るのにも役立つでしょう。
ブラゼルトン氏の“新生児行動評価” は、新生児が、外部から侵入してくるマイナスの刺激からわが身を守るとき、運動神経や自律神経をコントロールしてどのような行動をするかということを把握しようとするものです。26 の行動項目と20 の反射能力の評点を概念化するために、4 つの類型を特定しました。これまでのところ、長期的な有効性を確認する研究はありませんが、この評価基準は、産科医療、神経病の予測、異文化間の相違、低出産体重児の研究など、数多くの分野にて役立てられています。
マーシャル・クラウス氏と彼の妻フィリスは「驚くべき新生児」というタイトルの本を執筆し、また、同じタイトルの映画も製作しました。 クラウス氏は、”lying-in (分娩室 )”、
” r o o m i n g – i n(母子同室)”など、数多くの役に立つ用語を造り出し、こうした設備をもつ部屋を産婦人科に初めて設置しました。彼はた、”bonding(きずな形)”、”doula(デューラ:妊
娠、出産、育児中の母親を物理的、精神的にサポートする女性)” などの新語も造りました。
また、クラウス氏は陣痛と出産におけるタッチの持つ力を研究により明らかにしています。助産師に介助された女性の出産についてデータを集めたところ、タッチは妊娠している女性の不安を非常に減少させることがわかりました。 心理的不安とその生理的な面でのストレスホルモン(コルチゾール値)の減少は、胎児にとって、より良い環境をつくりだしています。
ジーン・アンダーソン氏は、早産児に対する数多くの種類のタッチを研究し、その刺激方法の開発をしてきました。 まず、彼
女は、赤ちゃんにおしゃぶりをしゃぶらせることにより口腔内部の刺激を行うことを推進しました。 マイアミ医科大学タッチ
リサーチ研究所のティファニー・フィールド博士らとの共同研究によって、チューブを使った摂食期間中に、おしゃぶりをしゃぶらせていた早産児が、対照群のおしゃぶりをしゃぶっていない早産児と比べて、哺
乳瓶による摂食への移行が数日早かったり、授乳をするのが簡単であったり、体重増加が促進されたり、数日早く退院するこ
とができるといったことがわかりました。
また、こうしてタッチが早期退院を促すことは、医療費の削減にもつながります。アンダーソン氏は、現在、カンガルーケアで赤ちゃんと母親のタッチ刺激を促すことにより、早産児のケアを大幅に改善できるということを提案しています。 子どもの生理学的成長と発育のために継続的な触覚刺激を行うことを提唱しています。
エドワード・Z・トロニック氏は、赤ちゃんが、無責任な人によってストレスの強い刺激を受けた場合、タッチをすることで、赤ちゃんのストレスを軽減することができると説明しています。 また、母親が落ち込んでいるとき、あるいは、非常に忙しいときに、タッチを多くすることによって、赤ちゃんのストレスを解消できると言います。落ち込んでいる母親は、表情や声がとぼしいため、タッチをすることで触覚刺激を与えることが有効です。シドニー・M・ジュラード氏は、人文心理学の分野で最も影響力のあった人物で、自己開示と人体認識の分野のパイオニアでした。彼は人文心理学協会の元会長で、「個
人の調節」(1958-1963)、「透明な自己」(1964-71)、「自らを明らかにする」(1968)、「自己開示」(1971)、「健康な個人」(1974) などの本の著者です。
フロリダ大学に在籍中、ジュラード博士は、国籍によって学生のタッチに違いがあることに気付き、1966 年“ボディーアクセシビリティ(身体接近)”についての試験的研究を行いました。 サンファン(プエ
ルトリコ)、パリ、ロンドン、ゲインズビル(フロリダ)の四つの町のコーヒーショップで、テーブル席に座って話している人を対象に、彼らが1時間以内に何回相手の身体に触れあったかを数えたのです。結果
は、サンファン180、パリ110、ロンドン0、ゲインズビル2 でした。ソール・シャンバーグ氏は、医科大学で、タッチを含むモデルカリキュラムを設計しました。薬物療法以前の時代には、医学の基礎であったタッチセラピーは、今や、医科大学のカリキュラムに復活しつつあります。 彼は、タッチと成長の関係にかかわる遺伝子を発見しました。動物をモデルにした彼の研究の多くが、早産児に対する触覚刺激
に関する研究の基礎となり、こうした研究が世の中に広まるきっかけとなりました。